「スパイ事件だから私は大丈夫」リトビネンコ事件後の健康リスク意識

提供元:ケアネット

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公開日:2007/12/14

 

2006年11月にロンドン中心部で発生したポロニウム-210(210Po)によるリトビネンコ氏毒殺事件後、ロンドン市民の毒物曝露リスクへの関心は低かったという。この事実は、公衆衛生にかかわる事故発生の最中に、一般市民にそのリスクの詳細を包括的かつ効果的に伝えることの重要性を改めて浮き彫りにした。
 King’s College London(ロンドン大学)精神科のG. James Rubin氏らは、当該事件後に健康リスクに関する一般市民の意識調査を実施、公衆衛生学的な情報伝達(public health communications)の評価を行った。BMJ誌11月1日付オンライン版、12月1日付本誌掲載の報告から。

健康リスクを意識した市民は11.7%にすぎない




ロンドン市民1,000人を対象に横断的調査を行い、毒物曝露の可能性があった86人に質的インタビュー(qualitative interview)を実施した。210Po事件後、個々人が自らの健康リスクをどう認識したかを調査し、質的インタビューでは情報ニーズをどの程度重視しているかを解析した。

横断的調査で、「自分の健康が危険にさらされている」と認識していたのは117人(11.7%)であった。健康リスクを意識した主な予測因子は、「これはスパイ事件ではなくテロリズムだ」という思いこみであった(オッズ比:2.7)。これは、テロリズムのターゲットが一個人ではなく広く公衆一般だからであり(オッズ比:5.9)、汚染地区にいなかった人々の認識に影響を及ぼしていた(オッズ比:3.2)。

包括的で詳細な曝露リスク情報へのアクセスが重要




質的インタビューを受けた者は全般に、得られた情報には満足していたが、個人的な曝露のリスク、尿検査の結果、事件が健康に及ぼす影響についてもっと多くの情報を望んでいた。

Rubin氏は、「2006年、ロンドンで起きた210Po事件後のロンドン市民の健康リスクへの関心は低かったが、これは汚染がスパイ活動に関連したものでターゲットは公衆一般ではなく、曝露されなかった市民にリスクはないと認識したためだ」と結論している。また、「将来、起きるであろう事故の際は、曝露のリスクに関する包括的で詳細な情報への自在なアクセスを保障することが重要だ」と指摘している。

(菅野 守:医学ライター)