患者の死への立ち合い方-医学部で教わらなかった大切なこと

提供元:ケアネット

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公開日:2019/06/24

 

 医師として働いている以上、何百回と患者の死に立ち合う。死は医療者にとっての日常だが、患者と家族には人生で数回しかない出来事だ。ある意味、死に慣れている医療者の悪気ない言動は、時に家族の悲しみを深めてしまうことがある。死に立ち合うとき、医療者は何に気を付ければよいのだろうか?
 『地域の多職種で作る「死亡診断時の医師の立ち居振る舞い」についてのガイドブック』1)作成者の日下部 明彦氏(横浜市立大学 総合診療医学教室)に話を聞いた。

-当直医の心ない振る舞いが、ガイドブック作成の原点

 緩和ケア病棟で責任者をしていたとき、ある当直医の先生に対して、何人もの看護師や遺族から苦情を受けていました。
 患者の死亡診断時にバタバタと入室して死亡時刻だけ告げて去っていくといった医師の振る舞いが、遺族を蔑ろにしているように感じられるというのです。医療スタッフの中には、そうした当直医の言動で、それまでに緩和ケアチームで行ってきたケアを台無しにされたと感じる人もいました。

 態度を改めるよう注意しようと思っても、当直医の先生は私よりもはるかに年上です。年下の私から指摘されても反発されるだけだろうと悩みました。考えた末の結論が、研究や論文として形にすることです。医師同士で話すための説得力があると思い、アンケート調査とハンドブック作成に至りました。

-医師が患者の死亡診断に向かうまでの望ましい振る舞いを時系列で例示

 ガイドブックでは、医師が患者の死亡診断に向かうまでの準備から退出までの望ましい振る舞いを、時系列で例示しています。

 患者のカルテを確認し、お名前をフルネームで覚える、病気の経過を把握する、身だしなみを整える、自分の名前を名乗る、経過・死因の説明を行う、携帯電話ではなく時計で死亡時刻を確認するといったことです。

 これらは遺族・訪問看護師・在宅医へのアンケートから、遺族が重要だと感じた項目を基にしています。

 ガイドブックは1つの参考として、ご家族や先生方の働いている環境に応じて、その場の空気感を大切にしてもらえたらと思います。

-患者の死期を予測してチームに周知することが医師に求められる役割

 ガイドブックは死亡診断時の振る舞いに特化していますが、医師にしかできないことがほかにあります。

 それは患者の死期を予測することです。なぜなら、人生の最終段階の医療・ケアは予後予測に基づいて計画されるべきだからです。

 予後数週間のがん患者に対して、輸液で延命効果は得られないというコンセンサスがあります2)。また、予後数日と考えられる老衰の患者への褥瘡処置は、治癒を目的としたものではないはずです。

 予後予測のエビデンスとしては、がん、老衰、慢性疾患それぞれに経過が異なることが知られています。がんの場合は、急激にADLが低下し、そのまま回復を遂げることなく数ヵ月のうちに亡くなることが一般的です。ですから、がん患者の予後予測は比較的容易といえます。老衰では徐々にADLが衰えていきます。慢性疾患では、入院を要する急性増悪のたびに亡くなる可能性がありますが、入院加療で回復する場合とそうでない場合を事前に予測することは困難です3)

 Palliative Prognosis Score4)といった指標も有用です。身体活動や食事摂取状況などをスコアリングして、1ヵ月単位の中期的な余命を算出することができます。週単位の予測指標(Palliative Prognostic Index)もあります。これらを参考に日々の身体診察を行うことで、予後予測の能力は上がっていくものと考えます。

 そして予後予測は、患者に関わる多職種チームに必ず共有してほしい。その情報が共有されてこそ、患者の余命に即した治療・ケアを行うことができるからです。

 老衰や慢性疾患といった予測が難しい場合も、そのときの病状で可能な限りの予測を立て、病状が変わるたびに更新し、チームに周知することが医師に求められる役割だと思っています。

-患者の死が予期できなかった場合に遺族の悲しみが長期化・深刻化

 予後予測は、医療スタッフと共有するためだけに行うのではありません。残された時間を家族に伝えることも重要です。それも、わかりやすい言葉で。

 はっきりと伝えることで家族を傷つけるのではないかと、心配される先生もおられるかもしれません。ですが、実際はその反対です。

 がん患者の家族に予後1ヵ月程度と伝えたときに、「それならば、頑張って自宅で看取ります」と前向きな返答をもらうことはしばしばあります。

 患者の死が予期できなかった場合、遺族の悲しみが長期化・深刻化して複雑性悲嘆となり、疾患に発展しやすいことが知られています。配慮をもって余命をお伝えすることは、亡くなるまでの時間をより有意義に過ごすため、そして遺族の今後のために医師にしかできない最善のサポートだと思います。

-医師が患者の死期を告げるには遠回しな言葉では伝わらない

 医師が家族に予測を伝えるときの言葉も重要です。私たちも人間ですから、患者の死期を告げるのは心苦しいものです。「何が起きてもおかしくありません」「急変の危険があります」といった遠回しな表現になってしまうのは致し方ないことだと思います。

 ただ、こうした言い方では家族に伝わらないということをぜひ知ってほしい。

 ではどういった言い方がよいのか。たとえば、「数日のうちにお亡くなりになると思います」「今夜あたりお別れになると思います」といった表現は一例です。亡くなる、お別れ、といった言葉を使うと伝わりやすくなります。

 言い方以上に重要なのは、予後をお伝えする意図も併せてお話しすることだと思っています。医師が患者の死期をお伝えするのは、亡くなるまでの時間をより良く過ごせるように願っているからにほかなりません。そして、最期まで家族ができることも、ぜひ伝えてほしい大切な点です。

 たとえば、患者の聴覚は最期まで残っています。好きな音楽をかけたり話し掛けたりすれば、患者が明確に反応できなくても伝わっている、というようなことです5)

 患者が亡くなるまでの間に家族ができることを伝えることで、一見つらいお話をする意図が伝わりやすくなると感じています。

-患者の死を遺族が健全な形で受容し立ち直っていけるサポートが緩和ケア

 死はとてもデリケートな場面ですが、どのように振る舞えばいいかを医学部で教わることはありませんでした。精いっぱいの医療を提供していても、振る舞い方を知らないばかりに医療者が遺族を傷つけてしまうというのは、双方にとって悲しいことです。

 WHOの定義によると、緩和ケアには遺族の悲嘆ケアも含まれています。遺族が患者の死を健全な形で受容し立ち直っていけるよう、診断から患者の死後に至るまでのサポートが緩和ケアということです。

 このスキームは現在の医学部教育にも組み込まれていて、遺族ケアの視点に根差した関わり方は、今後さらに求められていきます。

 私は、治療のゴールは「遺族に良い医療を受けたと思ってもらえること」だと思うのです。そうでなければ、将来にわたって医療者が信頼されることはないのではないかと。死亡診断を行う医師は、たとえ当直医であっても、遺族から見れば医療チームの1人です。医療者を代表して、遺族に良い医療を受けたと思ってもらえる振る舞いをしていくことが、医療の継続につながると信じています。

 日下部 明彦(くさかべ あきひこ)氏
横浜市立大学 総合診療医学教室 准教授
1996年、横浜市立大学医学部卒業。横浜甦生病院ホスピス病棟長(2007年)、みらい在宅クリニック副院長(2012年)を経て、2014年より現職。初期研修修了後、消化器内科、ホスピス、在宅医を経験し、各医療機関から見た緩和ケアや終末期医療の課題解決に取り組む。

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CareNeTV「死への立ち合い方‐死亡診断書の書き方から遺族への接し方まで」
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(ケアネット 安原 祥)

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