高齢者のフレイル予防には口腔ケアと食環境整備を

提供元:ケアネット

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公開日:2018/11/22

 

 外来栄養指導は医師の指示があった患者だけ…という状況が変わり始めている。2018年11月10、11日の2日間において、第5回日本サルコペニア・フレイル学会大会が開催された。2日目に行われた「栄養の視点からみたサルコペニア・フレイル対策」のシンポジウムでは、本川 佳子氏(東京都健康長寿医療センター研究所口腔保健と栄養)が「地域在住高齢者の食品摂取多様性とフレイル重症度との関わり」について講演した。

地域在住高齢者が入院してしまう前に
 高齢期では加齢による恒常性の低下などにより低栄養が起こりやすくなる。国民健康・栄養調査の報告によると、地域に暮らす65歳以上の5人に1人が低栄養傾向にあり、今後も後期高齢者の増加により、さらに増加すると見込まれている。

 低栄養は、合併症、創傷治癒の遅延をもたらし死亡率の増加につながるため、本川氏は、「早期からしっかり対策することが重要」とし、「高齢化が進む今、その方々のフレイル予防を基軸にした栄養管理をしっかり行い、くさびを打つことで施設移行者を1人でも減らすことが喫緊の課題」と現況を示した。

 これまでの地域在住高齢者におけるフレイル予防の研究は、ビタミン、タンパク質など特定の栄養素を中心に行われる傾向であったが、同氏は、「特定の栄養素というよりも、“良いと言われている食品や栄養素を含む食事を食べる”といった、日常の食事をどのように改善できるかが重要」とし、簡便な指標の利用を提唱。また、フレイル重症度にどのような栄養指標が関連するかを検討した『板橋お達者検診2011コホート研究』では、食品摂取多様性スコア、血清アルブミン値などを用いて栄養評価を行った。その結果、フレイルの発症や重症化を予防するための指標として、食品摂取多様性が有効であることが明らかになったという。これを踏まえて同氏は、「このスコアが高い人は、タンパク質や抗酸化ビタミンの摂取ができていたと考えられる。さらに、別の先行研究でも同スコアを特定高齢者に使用したところ、食品摂取の多様性が向上した」と、同スコアの有用性について語った。

日本発のオーラルフレイルとは
 前述した食品摂取多様性の維持には、口腔機能との関連が重要と言われている。これは滑舌低下、食べこぼしなどの些細な衰えにより、食欲の低下と共に食品摂取の多様性が低下するからであり、オーラルフレイルと呼ばれている。

 同氏が地域在住高齢者に対して口腔機能のアンケートを行ったところ、嚥下や咀嚼を含む口腔機能の低下を感じる者が20~30%も存在していたという。また、咀嚼能力とサルコペニア・低栄養の関係についてキシリトール咀嚼力判定ガムを用いて調べたところ、咀嚼力が無い参加者はタンパク質や脂質、鉄などの栄養素が低値であった。とくに食品では肉類の摂取不足が判明した。さらに咀嚼能力とサルコペニア・低栄養の有症率について検討し、同氏は、「咀嚼能力はサルコペニア・低栄養と有意に関連する」ことを結論付けた。

配食、コンビニ・スーパーなどを利用した食環境の整備を
 最後に同氏は講演を振り返り、「得られた知見を現場にどのように還元していくかが問題」と今後の課題を提示した。現在、厚生労働省が配食サービスの普及を推進していることを紹介し、支援する必要性を訴えた。さらに、「高齢者が最も利用する食事サービスは市販弁当などの購入や外食であるため、食環境整備がそれらの一助となる必要がある」と付け加えた。

 在宅療養者などに対しては、「全国の栄養・ケアステーションに所属する訪問栄養士などに相談する」ことを推奨し、管理栄養士による在宅医療の拡充にも期待を寄せた。

■参考
厚生労働省:地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理
日本栄養士会:全国の栄養・ケアステーション

(ケアネット 土井 舞子)