重症頭部外傷患者の長期予後の現状/脳神経外科学会

提供元:ケアネット

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公開日:2018/10/29

 

 重症頭部外傷患者においては、急性期からの回復後も、身体や精神に生じた重篤な後遺症に伴い、社会復帰や社会参加が困難となることが多い。通常、救命にかかわった者と経過観察を行う者が異なるため、患者の長期予後を完全に追跡できることは少ないと考えられる。

 横浜市立大学附属市民総合医療センター高度救命救急センター/脳神経外科 濱田 幸一氏らは、重症頭部外傷症例の患者が円滑に社会参加できるための対策をたてることを目的に、これらの患者の長期予後についての観察研究を行い、その結果を日本脳神経外科学会 第77回学術総会で発表した。

 研究は、同院の高度救命救急センター退院後、2017年12月31日までに5年以上経過観察し得た23症例を対象に、診療録を用い後ろ向きに行われた。調査項目は、対象患者の年齢、性別、後遺した障害の内容、外来診療継続理由(けいれん発作、高次脳機能障害、運動障害など)。高次脳機能障害は遂行機能障害、社会的行動障害、抑うつに分けて調査した。

 主な結果は以下のとおり。
  ・平均年齢36.0歳、追跡期間は3,056日であった。
  ・後遺障害の内訳は、治療用器材挿入5例、身体機能障害7例、高次脳機能障害
   14例、けいれん発作7例であった。
  ・高次脳機能障害の内訳は、記銘力障害、遂行機能障害がともに14例で、記銘力
   障害が遂行機能障害につながっている例が多くみられた。そのほか、注意障害
   (12例)、社会的行動障害、易怒性(ともに11例)などが多くみられた。
  ・診療中断例は2例であった。
  ・転帰は、「完全復職」が10例、「作業所(に留まることなった)・
   転校(が必要となった)」10例、「失業・退学(となった)」3例であった。

 後遺症を伴う頭部外傷患者の適切なフォローには、作業所や学校、患者・患者家族の会、ケースワーカーなどの包括的なケアが重要だと考えられる。実臨床では、外来経過観察時における、けいれん発作の対応、挿入器材のメンテナンスなど脳外科医としての業務に留まらず、精神障害者手帳の作成、リハビリテーション施設への依頼、作業所・就学先との連携などを求められることもある。また、遂行機能障害ではリハビリテーション科の介入が、社会的行動障害では精神科の介入が必要となる。

 今後は、重症頭部外傷患者の多彩な病態への個別対応が実現できるよう、多職種間連携を行い、地域包括ケアシステムとも連動させていく仕組みを構築し継続していく必要がある。

(ケアネット 細田 雅之)