SMA患児の運動機能が大きく変わった

提供元:ケアネット

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公開日:2018/08/10

 

 2018年7月31日、バイオジェン・ジャパン株式会社は、脊髄性筋萎縮症治療薬ヌシネルセンナトリウム(商品名:スピンラザ髄注12mg)が発売から1年を超えたのを期し、「新薬の登場により、SMA治療が変わる」をテーマに都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、脊髄性筋萎縮症(以下「SMA」と略す)の概要、治療の効果などが説明された。

「呼吸が弱い」「いつもグニャとしている」新生児がいたら
 講演では、弓削 康太郎氏(久留米大学医学部 小児科学教室 助教)を講師に迎え、「SMAが変わる」をテーマに、疾患概要とヌシネルセンナトリウム処方後の効果について説明が行われた。

 SMAは、進行性する運動ニューロン病として、体幹・四肢の近位部優位の筋肉が低下する難病。常染色体劣性遺伝形式で原因遺伝子はSMN1遺伝子と同定されている。SMAは発症年齢と重症度で4つに分類され、I型は重症型(生後6ヵ月までに発症)、II型は中間型(生後1歳6ヵ月までに発症)、III型は軽症型(生後1歳6ヵ月以降に発症)、IV型は成人型(20歳以降で発症)となっている。患児・患者発生は10万人当たり1~2人、年間発生は約50~60人と推定され、SMN1遺伝子の保因者は100人に1人と推定されている。現在、治療では、対症療法を主体に行われている。

 主な症状としては、新生児であれば体が柔らかく、手・足・首がだらりと垂れたり、筋肉の萎縮、背骨が曲がったりする。幼児から成人まででは、歩行困難や体幹の筋肉の萎縮などが起こる。顕著な症状としては、呼吸が弱く、咳ができない、痰が出せないなどの呼吸症状がみられ、急変しやすく最悪の場合には呼吸不全となる。成人型では、側湾に障害が起こる場合もあり、骨成長が脆弱な点も特徴的であるという。そして、早期診断の重要性を強調するとともに、一般的な外来診察では気付きにくく、医師以外に患児の祖父母や保健師などからの「寝返りしない」「手指の細かい震え」などの報告や意見が診断の助けとなるというポイントを示した。

SMAの治療ができるステージへの期待
 つぎにヌシネルセンナトリウムの効果について、主に自院の患児症例について報告が行われた。それによると今まで押せなかったリモコンボタンが押せるようになった例、頸がしっかりとした例、痰排出が容易になった例、咀嚼の改善などの運動機能の改善例が報告された。また、呼吸機能の大きな改善はないものの、睡眠時の中途覚醒が少なくなり、患児のADLだけでなくQOLの改善も報告された。

 今後のヌシネルセンナトリウムの課題について、薬価が高価であること、重症側弯症へのアプローチ、長期成績・安全性の確立、進行例へのエビデンス不足などがあるという。

 最後に同氏は「SMAはヌシネルセンナトリウムの登場で治療可能な疾患となりつつある。今後は、積極的な診断、治療、評価が必要であり、患者・家族の生き方にも変化を起こすと考えられる(たとえば次子の妊娠希望や出生前診断など)。今後は、遺伝子スクリーニングや発症前治療の是非などの課題を解決しつつ、早期診断、早期治療に努めていきたい」と展望を語り、講演を終えた。

ヌシネルセンナトリウムの概要
 製品名:スピンラザ髄注12mg
 一般名:ヌシネルセンナトリウム
 効能・効果:脊髄性筋萎縮症
 用法・用量:通常、1回につき決められた用量を投与する。乳児型では初回投与後、2週、4週および9週に投与し、以降4ヵ月の間隔で投与を行うこととし、いずれの場合も1~3分かけて髄腔内投与すること。乳児型以外では初回投与後、4週および12週に投与し、以降6ヵ月の間隔で投与を行うこととし、いずれの場合も1~3分かけて髄腔内投与すること。
 副作用:発熱、頻脈、貧血母斑、蜂巣円、処置後腫脹、眼振、血管炎など
 製造販売承認日:2017年7月3日
 薬価:932万424円(4ヵ月毎、年3回投与における年間薬剤費は2,796万1,272円)
 製造販売元:バイオジェン・ジャパン株式会社
 ※なお、本年1月より全国の大学・主要病院で新生児スクリーニング研究を開始。

■参考
SMA特設サイト(バイオジェン・ジャパン株式会社提供)
SMA患者登録システムSMART(SMARTコンソーシアム)

(ケアネット 稲川 進)