前立腺全摘除術で知っておきたい合併症

提供元:ケアネット

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公開日:2018/06/26

 

 2018年6月13日、ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社は、「男性の尿漏れに対する先進的な治療法 尿漏れ手術『人工尿道括約筋植込術』~前立腺がん治療後の尿漏れ患者約10,000人のQOLに貢献~」をテーマに、3名の演者(国立がん研究センター 増田 均氏/東北医科薬科大学 海法 康裕氏/原三信病院 武井 実根雄氏)を迎え、都内でセミナーを開催した。本稿では、その概要を紹介する。

前立腺全摘後の尿失禁は半数以上の患者が経験する
 前立腺がんは、50代以降で急激に罹患率が増加する疾患で、前立腺と精嚢を摘出し、膀胱と尿道をつなぐ前立腺全摘除術(手術療法)が標準的治療法の1つとなっている。わが国では、年間2万例もの全摘除が施行されるが、術後、多くの患者が合併症である尿失禁を経験するという。症状はほとんどの場合、術後6ヵ月までに急速に改善するが、18~24ヵ月を超えてさらに改善することはほぼない。尿失禁に対する治療として、最低1年間までは、内服治療、骨盤底筋体操などが行われ、重症の場合(尿とりパッド3~4枚/日以上もしくはQOLの著しい低下例など)は、人工尿道括約筋植込・置換術が保険適用となる。重症尿失禁の発生率は、前立腺全摘除術が行われたうちの2~3%ほどだが、人工尿道括約筋による治療件数は1%ほどに留まっている。

 前立腺全摘除術は、75歳以下の前立腺がん患者が主な対象で、手術以前はほとんどの人が普通の生活を送っているため、尿失禁などの術後合併症によるQOLの著しい低下は深刻な問題である。尿失禁への適切な対応が遅れる原因として、主治医側は術後尿失禁に対する十分な知識・情報や治療経験を持っていないことなど、患者側の問題としては、尿失禁の症状を主治医になかなか言い出せないこと、他人に相談しづらく、十分な情報が手に入らないことなどが考えられる。

人工尿道括約筋の操作はボタンを押すだけ
 本セミナーで紹介された人工尿道括約筋(AMS-800)は、人工尿道括約筋植込・置換術により体内に埋め込まれるため、外からは見えない。生理食塩水が充填され、尿道に巻かれたカフが括約筋代わりとなり、尿禁制状態が保たれる。排尿する際は、陰嚢に留置されたコントロールボタンを数回押し、生理食塩水をバルーンに移動させることでカフがしぼみ、排尿が可能となる。排尿後は自然にカフが膨らみ、元に戻る。この手術により、患者のQOLは大きく改善され、高い患者満足度を示すという。

 患者への術前説明時の注意点として、「尿失禁がまったくゼロにはならないこと(軽度の腹圧性尿失禁や、排尿後の尿滴下が残存することが多い)」「作動不良、感染、尿道萎縮に伴う再発などで抜去・置換が必要な場合があること」などの説明をしっかり行うことが挙げられた。海外データの解析によると、術後5年でおよそ20~25%に抜去・置換の必要が生じるという。しかし、尿失禁で苦しんでいる患者の選択肢の1つとして、医療者・患者は知っておきたい方法だ。

(ケアネット 堀間 莉穂)

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