「パーキンソン病診療ガイドライン」7年ぶりに改訂

提供元:ケアネット

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公開日:2018/06/08

 

 2011年以来の改訂版となる「パーキンソン病診療ガイドライン 2018」が5月15日に発行された。今回のガイドライン改訂では、パーキンソン病診療における最も重要な臨床課題として「早期パーキンソン病治療」と「運動合併症治療」を設定し、GRADEシステムに基づいてエビデンスレベルと推奨レベルの2軸による治療の推奨度が示された。「Minds診療ガイドライン作成の手引き(2014年版)」に準拠して作成され、治療だけでなく診断基準や病因、画像所見などについても幅広く解説されていることから、「治療ガイドライン」から「診療ガイドライン」に名称を変更している。

 「パーキンソン病診療ガイドライン 2018」は日本神経学会を中心に、日本神経治療学会、日本脳神経外科学会、日本定位・機能神経外科学会、日本リハビリテーション医学会の協力のもとで作成された。また、看護師や薬剤師、患者らが参加するパネル会議を開催し、多職種による議論を経たうえで、推奨文の内容が決定されている。

パーキンソン病診療ガイドラインはGRADEシステムに基づく2つのCQと50のQ&Aで構成

 「パーキンソン病診療ガイドライン 2018」は、各抗パーキンソン病薬、手術療法やリハビリテーションについてそれぞれ有効性と安全性をまとめた第I編、早期および進行期の2つのCQについて推奨度、治療アルゴリズムを示した第II編、診断・治療における50の臨床課題についてQ&A方式でまとめた第III編で構成される。

 第I編では、ドパミンアゴニスト徐放剤、アポモルヒネ皮下注射、イストラデフィリン、L-ドパ持続経腸療法など、前版「パーキンソン病治療ガイドライン2011」発行後の新しい治療法について情報が追加された。第II編では、「CQ1:早期パーキンソン病の治療はどのように行うべきか」、「CQ2:運動合併症に対する治療について」の2つのCQを設定。CQに対する推奨文には、1(強い:確実に行うことが強く推奨される場合)もしくは2(弱い:条件を選べば推奨できる場合)の推奨レベル、およびA~Dの4段階(最も高いものがA)のエビデンスレベルが明記されている。

 第III編は、「パーキンソン病治療ガイドライン2011」における第II編の内容を改訂したもの。重要ではあるが、エビデンスが少ない臨床課題として、GRADEシステムに基づくCQとは区別する意味で、「パーキンソン病診療ガイドライン 2018」ではQ&Aとしてまとめられている。

パーキンソン病診療ガイドラインでは早期はL-ドパを中心にドパミンアゴニストもしくはMAOB阻害薬

 以下、「パーキンソン病診療ガイドライン 2018」での大きな改訂点である、第II編の2つのCQの概要を紹介する。

■早期パーキンソン病は、診断後できるだけ早期に薬物療法を開始すべきか[CQ1-1]
 推奨:特別の理由のない限りにおいて、診断後できるだけ早期に治療開始することを
 提案する(2C:弱い推奨/エビデンスの質「低」)
 付帯事項:早期介入による不利益に関する十分なエビデンスがないことから、治療を
 開始する際は効果と副作用、コストなどのバランスを十分考慮する。

■早期パーキンソン病の治療はL-ドパとL-ドパ以外の薬物療法(ドパミンアゴニストおよびMAOB阻害薬)のどちらで開始すべきか[CQ1-2]
 推奨:運動障害により生活に支障をきたす場合、早期パーキンソン病の治療はL-ドパで
 開始することを提案する(2C)
 付帯事項:運動合併症リスクが高いと推定される場合はドパミンアゴニストもしくは
 MAOB阻害薬を考慮する。抗コリン薬やアマンタジンも選択肢となりえるが十分な根拠
 がない。


パーキンソン病診療ガイドラインでは進行期にどの治療法をアドオンするか推奨度を明示

 「パーキンソン病診療ガイドライン 2018」のCQ2では、ウェアリングオフ(L-ドパを1日3回投与しても、薬の内服時間に関連した効果減弱がある)を呈する進行期パーキンソン病患者に追加する治療法について、それぞれ推奨度が示された。各推奨度と、付帯事項の概要については以下の通り。

■ドパミンアゴニスト[CQ2-1]
 推奨度:2A
 付帯事項:60代前半対象のエビデンスに基づくため、高齢者への使用には注意を要
 する。L-ドパとの併用によるオフ時間の短縮効果、L-ドパ減量効果、UPDRS partIII
 スコアの改善効果があり、副作用の発現に注意しながら使用することを提案する。

■ドパミン付随薬
・COMT阻害薬[CQ2-2-1]
 推奨度:2B
 付帯事項:なし
・MAOB阻害薬[CQ2-2-2]
 推奨度:2C
 付帯事項:セレギリンのRCTが少なく、ラサギリンについては現時点で本邦における
 エビデンスが公開されていない
・イストラデフィリン[CQ2-2-3]、ゾニサミド[CQ2-2-4]
 推奨度:2C
 付帯事項:本邦のみでの承認薬剤のため、海外での評価が定まっていない点に注意が
 必要

■脳深部刺激療法
 推奨度:2 C
 付帯事項:オフ時の運動症状改善、L-ドパ換算用量の減量効果があるが、認知
 機能への影響のほか、合併症も起こりうるため、慎重に適応を判断する

 なお、「パーキンソン病診療ガイドライン 2018」のCQ1およびCQ2では、それぞれ章末に資料として、推奨度をもとにした治療アルゴリズムがフロー図の形で示されている。

(ケアネット 遊佐 なつみ)