糖尿病発症や最適な食事療法を個別提示

提供元:ケアネット

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公開日:2018/06/06

 

 遺伝子解析を用いた個別化医療が進んでいるが、遺伝子を用いず糖尿病発症を予測し、個別に食事療法(低炭水化物食、エネルギー制限食、低脂肪食)を提案できたら、どんなに有益だろう。2018年5月24日より3日間、都内で開催された第61回日本糖尿病学会年次学術集会(学会長:宇都宮 一典)において、個別の糖尿病発症や食事療法の最適化に関する発表が行われた。

 坂根 直樹氏(京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室)は、「個人毎の最適なエネルギー摂取やお勧めの栄養素バランスを提示する糖尿病発症予測システムの開発:機序計算モデルを用いて」と題し、現在の取り組みを講演した。

 これは、従来の糖尿病リスクスコア(例:観察研究から年齢・性・BMI・HbA1c・家族歴や遺伝子多型などを利用)では、平均的なリスクの提示のみになってしまうといった短所を補うべく、米国糖尿病予防プログラム(DPP)でも用いられた臓器間のネットワークを取り入れた機序計算モデル“Bodylogical1)”が使用された。その方法として、糖尿病予防のための戦略研究J-DOIT1登録の2,607例のデータの中から、介入により減量と血糖改善効果が高かった者と低かった者の合計120例を抽出。個人ごとに生体指標(体重、空腹時血糖、HbA1c)を時系列データに近似させ、さらに減量成功と血糖改善のための食事療法の最適化を行った。

 結果として予測データのRMSEは、通常の臨床的測定エラー範囲に収まったほか、個々人の生理学的特性(エネルギー必要量など)や実際のライフスタイルの変動を表すパラメータを推定することができた。具体的には、単純な食事と運動のエネルギー収支だけではBMIの変化を十分には説明できなかった。あるケースでは減量を成功させるには低炭水化物食にしたほうがよく、あるケースでは低脂肪食のほうがよかった。また、低炭水化物食でも低脂肪食でも、どちらでもよいケースもあった。減量と血糖改善の両方を成功させるためには、どのような食事療法が最適であるかを予測することもできた。

 最後に、坂根氏は「従来の糖尿病リスクスコアでは平均的なリスクを提示するだけであったが、この機序計算モデルを用いることで、生活習慣の修正で体重やHbA1cがどのように変化するかを見せることができ、さらに個人ごとに食事療法を提案することもできる。療養指導だけでなく、臨床研究デザインの設計や介入研究の抽出にも活用することができる」と、これからの展望を述べた。

■参考文献
1)Sarkar J, et al. PLoS One. 2018;13:e0192472.

(ケアネット 稲川 進)

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