東日本大震災後の透析対応の実際は?

提供元:ケアネット

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公開日:2016/12/20

 

 東日本大震災が発生した2011年3月11日から今年で5年。2016年は地震が多く、4月に発生した熊本地震が甚大な被害をもたらしたことは記憶に新しい。災害時の停電や断水などによって、命の危険にさらされるのが人工透析を受けている患者である。
 そこで今回、相馬中央病院 小柴 貴明氏らが報告した、東日本大震災後の福島県、相馬中央病院における血液透析患者の増加と医療スタッフの不足を検討した調査を紹介する。Therapeutic Apheresis and Dialysis誌2016年4月号掲載の報告。

 福島県の相双地区は、他の地域と隔てられており、震災前から慢性的な医療スタッフ不足であった。震災後は福島第一原子力発電所(以下、原発)の事故の影響で周辺地域が避難地域などに指定され、医療スタッフ不足はより一層深刻となった。さらに、避難区域に含まれた相双地区の透析センター6施設のうち、2施設が閉鎖した。

 震災後、相双地区においてCKD患者の増加が顕著であり、透析へ移行するケースも増え、透析患者増加と医療スタッフ不足の不均衡が顕著となった。そのため、同センターでは、持続的に増加する透析患者への対応が困難となり、2014年11月に新患の受け入れを中止せざるを得なくなった。

 上述した背景を踏まえ、筆者らは震災による医療スタッフの負担増大をはかる指標を振り返り、再評価した。

【評価方法】
 震災前後(2010年1月~2014年12月)の患者数、医療スタッフ数(看護師、臨床工学技士)、透析回数、医療スタッフの勤務日数を比較し、合計透析回数/総勤務日数を努力指標とした。

【主な結果】
 震災前の同センターの患者数は40~45名であったが、避難した患者や津波被害で亡くなった患者もおり、震災直後は31名となった。その後、閉鎖した透析施設の患者も受け入れ、2011年の夏までに50名に増加した。2012年末~2013年半ばにかけて、患者数は震災前と同程度となったが、2013年半ば~2014年半ばにかけて患者数が増加し、2014年後半には54名となった(表1)。

<表1>2010年~2014年の平均透析患者数


 2013年末から患者増加を見越して、経皮的バスキュラーアクセス拡張術(VAIVT)、2014年春にはバスキュラーアクセスの外科的再建術(VA)を開始したが、医療スタッフ数には大きな変化はなく(表2)、2014年には医療スタッフの平均勤務日数が減少していき、努力指標は相変わらず高いままであった(表3)。その結果、同センターの患者許容を超えてしまったため、同年の11月に新患の受け入れを中止した。

<表2>2010年~2014年の平均医療スタッフ数


<表3>2010年~2014年の努力指標


 2014年夏には医療スタッフの負担が増加し、努力指標の比率は3.5と高かった。この数字は、震災前の2010年初めに医療スタッフへの負担が増大した際、2名のスタッフが追加される前の努力指標の比率3.6と同程度であったが、患者数、医療スタッフ数は各年で異なっていた。
 この指標は、2010年初め~2014年末の間に筆者らが経験した患者数と医療スタッフ数の不均衡を反映していると思われる。

 今回、筆者らが提案した努力指標は、医療スタッフの負担が軽減されているかを評価する参考になると考えられる。今後、その正確性を慎重に検討していく必要がある、と述べている。

(ケアネット 常盤 真央)