日常の血圧を心臓1拍ごとに測定する時代がまもなく到来

提供元:ケアネット

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公開日:2016/04/20

 

 4月18日、オムロンヘルスケア株式会社(京都府向日市、代表取締役社長:荻野 勲)は、心臓の拍動1拍ごとの血圧を測る、連続血圧測定技術を世界で初めて開発したことを発表した。

 同社は1973年に家庭血圧計「マノメータ式手動血圧計(HEM-1)」を開発した。その後、同社の製品を中心に家庭血圧計が普及し、わが国ではいまや約3,500万台に上り、各家庭に備わっていると言われるまでになった。さらに高血圧診療においても、家庭血圧測定の位置付けは『高血圧治療ガイドライン』の2009年版における「家庭血圧の測定は有用であり、日常診療の参考とする」から、2014年版の「診察室血圧と家庭血圧の間に診断の差がある場合、家庭血圧による診断を優先する」へと格上げされている。

 このように、家庭血圧が診察室血圧に比べ、日常の血圧をより捉える方法であると言っても、それでも一時点の血圧を検出しているにすぎない。心臓は1日10万回拍動し、血圧値は10万回変動している。家庭血圧でも24時間自由行動下血圧でも、カフ・オシロメトリック法による血圧測定は、カフで上腕などの血管全体を圧迫し血流を一時止める方法を採用しているため、負荷なく、連続して血圧を測ることはできなかった。

 今回、同社はトノメトリ法を用いて、世界で初めて、手首に機器をつけるだけで簡単に1拍ごとの血圧を測定する技術を開発した。トノメトリ法は、手首の体表近くにある橈骨動脈に圧力センサを平らに押し当てて、1拍ごとの血圧を測定する方法である。トノメトリ法を用いた血圧測定装置はこれまでも実用化されていたが、手首で捉えた1拍ごとの血圧値と、上腕で測った血圧値とを照合させる必要があったため、大型の機器にならざるを得なかった。しかし、同社は46個のセンサを1列に並べた圧力センサを開発し、それを血圧測定に採用することで小型化に成功した。

 発表されたプロトタイプは重量約200g、これまでに連続10時間以上の測定を実現しているようだ。オムロン社員が実際に装着し、1心拍ごとの血圧測定モニタリングをライブでお披露目した。若干緊張しているのか収縮期血圧は120mmHg台を推移していたかと思うと、当人が呼吸を止めた間は10mmHg前後低下するなど、血圧の推移がリアルタイムに見てとれた。

 当日の苅尾 七臣氏(自治医科大学 循環器内科学)の発表では、脳出血の既往がある、睡眠時無呼吸症候群の患者さんの睡眠中の映像と、それにシンクロした血圧値を見ることができた。映像では22秒間無呼吸状態が続き、その間、収縮期血圧値は100mmHg程度まで低下。呼吸が再開されると血圧変動パターンは一転し、血圧値は見る見るうちに上昇、最高190mmHgまで到達した。苅尾氏は、1心拍ごと変動、日内変動、日間変動、季節変動、年間変動といった時相の異なった血圧急上昇が複雑に絡み合って脳・心血管イベントが発症するのではないか、と「ダイナミックサージ」という仮説を、この患者さんにも適用した。

 本年3月から、夜間血圧を連続的に測定する臨床研究が開始されている。また、医学的価値の検証とともに、プロトタイプはさらなる小型化とユーザビリティの改善を図る計画だという。これによって、従来の測定方法では検出できなかったハイリスク群を特定し、未病のうちから治療を施す先制治療によって、脳・心血管イベントゼロを目指す時代が幕開けした。逆に、これまで治療対象とされてきた集団のうち、実はハイリスクではなかった集団をこの新たな技術で特定し、医療経済的に効率的な治療を目指すことも、これからのわが国に課せられた課題ではないだろうか。この技術が高血圧研究だけでなく、高血圧診療のパラダイムシフトを起こすことを期待したい。

(ケアネット 藤原 健次)