これからの医療制度の在り方を探る

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ケアネット

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 3月12日都内において、第6回医療法学シンポジウム(主催:医療法学研究会)が「少子高齢化社会を乗り越える医療制度の実現に向けて」をテーマに開催された。シンポジウムでは、さまざまな分野のエキスパートが、将来の医療制度の在り方について議論した。

これからの医療制度、健康政策の在り方
 「2035のビジョンがなぜ必要か」をテーマに渋谷 健司氏(東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室教授)が、先ごろ提言書としてまとめられた「保健医療2035」の概要を説明した。
 「保健医療2035」は、わが国の社会保障制度を長期的な視点で見直し、現行制度の持続、維持を超えて、社会システムとしての保健医療を再構築することを目的に、研究者、臨床医、民間など多彩な委員が集まり、まとめあげられたものである。
 最終目標は「世界最高水準の健康、医療が享受でき、安心、満足、納得を得ることができる持続可能な保健医療システムを構築することで、世界の繁栄にも貢献する」としている。この基本理念として、「公正・公平、自律連帯、日本と世界の繁栄と共生をはかる」を定め、施策実現のために厚生労働省内にプロジェクト推進本部が設置された。「今後、この提言書をベースにさらに社会的な議論を深め、実行性のあるものとしていく」と語った。

健康日本21で目指す社会
 「健康日本21 エビデンスに基づいた医療政策決定」をテーマに、羽鳥 裕氏(日本医師会常任理事、稲門医師会会長)が、日本医師会の推進するこれからの健康社会へ取り組みについて説明した。
 厚生労働省が実施した「(第1次)健康日本21」は、目標到達度約6割で終了した。現在、第2次(2013年開始)が進行中である。そして、10年後に目指す姿として子供も成人も希望が持てる社会、高齢者が生きがいを持てる社会、健康格差の縮小する社会などが謳われている。現在、65歳以上の高齢者が国民総医療費の55.5%を享受する中で、持続可能な制度を探るため、どのような負担配分がよいか議論が必要だと問題を提起した。
 健康面では国民の3大リスクとして、喫煙、高血圧、運動不足が示されている。これらは、国民各自で改善できるリスクであり、今後これらリスクを減らす取り組みが必要であるという。
 そうした環境の中で医師会では、(1)かかりつけ医機能の推進(地域の医師が地域医療を底上げするシステム)と(2)日医健診標準フォーマットの導入(蓄積されたデータを地域医療などで役立てるもの)で地域・職域への支援を行うことにより、超少子高齢化社会の日本の医療システムモデルを作っていくと説明した。

高齢化社会を悩ます認知症
 「認知症患者ケアと終末期の実際」をテーマに、灰田 宗孝氏(東海大学理事、東海大学医療技術短期大学学長、稲門医師会副会長)が講演を行った。
 講演では、主に「高齢者の認知症」を取り上げ、その診療のポイントから家族、社会に与える問題を概説した。
 認知症は、日常使わなくなった機能から病的に衰える疾患であり、進展すると日常の機能も障害される。そのため1日でも早く進展を止めることが重要である。現在、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の2疾患の治療薬に保険適用が認められている。認知症では、病中期から患者の看護や介護で多大な負担が生じるため、早期に診断し治療を開始することにより、進行を遅らせ少しでも良い状態を持続させることで、患者のみならず患者家族、社会的負担をいかに軽減させるかが重要だと語る。「今では成年後見制度などの種々のサポート制度もあるため、積極的な診療とともに活用してほしい」とレクチャーを終えた。

社会保障と医療について議論の整理を
 「医療経済学と向き合う」をテーマに、中田 善規氏(帝京大学大学院公衆衛生学研究科 教授)が、経済的な側面から医療について講演を行った。
 はじめに医療保険・年金は福祉(公的扶助)ではないという結論を示し、論点を整理した。医療保険や年金は、必ず出資者がいて、その集めた出資金(掛け金)に応じて、適正配分されるものであるため、社会的に騒がれているような財政に関する諸問題と混同してはいけないという。
 (民間も含めて)医療保険は、将来起こるかもしれない不安へのリスクヘッジであり、これは国民健康保険も同様である。相互扶助や隣人愛、救貧ではないため保険料を納めていない人は何も享受できない(これは年金制度も同様)。そのため、掛け金が出資される限り、本来的に制度は維持できると説明した。ただ、保険・年金に公的扶助の機能を持たせると非効率的になる。社会保障と社会保険はきちんと分けて議論されるべきであり、貧困者には保険・年金ではなく、公的扶助の面を充実させるべきであると問題を提起した。

高齢者をめぐる法的問題
 「医療法学における視点」として大磯 義一郎氏(浜松医科大学法学教授、日本医科大学 医療管理学客員教授、帝京大学医療情報システム研究センター客員教授、稲門医師会理事)が、高齢者にまつわる法的問題をレクチャーした。
 終末期に関連する問題として「安楽死」と「尊厳死」がある。とくに尊厳死については、現在拠るべき法律がないため、司法も判断に苦慮している。これは司法ではなく、立法論の問題であり、現在も模索されているという。また、最近増加している高齢者虐待をはじめとする「高齢者(とくに認知症患者)を取り巻く諸問題」にも言及し、高齢者への虐待は年々報告数が増加し、介護疲れなどの理由が多く介護側の疲弊がみられると述べ、その防止の対策も待たれると指摘した。
 次に高齢者の徘徊などにより起こった事件・事故の責任について、本年3月1日に最高裁判所で出された認知症患者の事故に関する損賠賠償請求事件の判例を例に挙げ説明を行った。民法上、認知症患者は責任無能力者とみなされ、事件・事故の賠償責任は負わないとされているが、その法定監督義務者は賠償責任を負う可能性があることを指摘。最高裁判所の見解では、「日常の看護などの態様を公平の見地から判断して決める」としているが、この判断が、今後介護などの萎縮につながらないよう制度や仕組み作りをする必要があると語った。また、個人レベルでは、徘徊保険などに任意加入することで、個人の賠償責任を回避することができる(これは認知症患者を預かる施設なども同様)と対応策を提案した。今後、個人や特定施設だけに過度な責任が押し付けられないよう、責任負担の公平化、手続きの明確化や任意保険加入の推進、未加入者へのサポートなど総合的な施策が求められると問題点を指摘した。

終末期の現場から
 「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の実践 静岡県西部の現在と未来」をテーマに井上 真智子氏(浜松医科大学地域家庭医療学講座特任教授)が、終末期の話題を提供した。
 ACPとは、「いかに慢性期の高齢者の看取りを行うか」というもので、現在静岡県西部地域で行われている。あるアンケートによれば、「死」について考えることは約7割が賛成している一方で、準備をしている人は少なく、半数が終末期ケアの希望を配偶者に話していないという(英国 Dying Matters調べ)。そのため、家族、友人、主治医などに終末期の医療や介護ケアについて事前に話し合っておくことは重要である。
 実際、自宅での看取り事例を示しつつ、「死の直前に病院から在宅に移行する患者も多い。できれば患者の事前指示書を家族に伝え知らせておくことが大事で、指示書は患者と定期的に見直すことも相互理解につながる」と運用のポイントを語った。
 ACPの活動が、人生の最終段階における医療の在り方に与える影響は、これから検証が必要となるが、明らかに看取り後の患者家族の満足度は高くなっているという。「今後は、ACPの実践をチームスタッフと地域住民が共同して、さらに推進することを目指す」とレクチャーを結んだ。
 最後に演者全員が登壇し、これからの高齢者医療と医療制度をテーマにパネルディスカッションが行われ、「保健医療2035」、「健康日本21」を基に、高齢化社会で必要な論点の整理(終末期の在り方、認知症への対応、医療者の労働環境、医療経済)などが話し合われた。

(ケアネット 稲川 進)

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