伊賀先生のページ > 依頼原稿・投稿 > 胸痛のはっきりしない心筋梗塞と、見逃しやすい心筋梗塞の心電図
はじめに
心臓の診断は、病歴(医療面接)、身体診察に加えてどのこの診療所でもほぼ可能である、胸部レントゲン、心電図、一般採血にて総合的に行う。 心筋梗塞の診断においては心電図が特に重要であるが、その読影に際しては、この心電図が症状発現から何時間たったものかという情報抜きには行えないことを認識すべきである。
ST上昇と下降を示す心電図
図1 (拡大可能) | ST上昇は貫璧性の心筋虚血のサインであり、ST下降は心内膜下虚血のサインである。しかし、V1〜4のST下降は後壁のST上昇の鏡面像であり、貫壁性の虚血の可能性が高い(図1)。1枝病変の急性心筋梗塞例では、ほとんどがST上昇を示すが、多枝病変例ではV5,V6のST下降のみを示すことは珍しいことではない。
胸痛のはっきりしない心筋梗塞
糖尿病患者や高齢者の急性心筋梗塞例では、特徴的な症状があまりなく、単に全身倦怠感、食欲不振が初発症状であることもある。上記の患者が通常と異なる不定愁訴を呈したとき、急性心筋梗塞の可能性も考えて心電図をとることは重要である。 下壁梗塞では、胸痛ではなく上腹部痛を訴えることもあり、消化器内科で採血と胃カメラを施行されてから紹介されることがある。痛みの持続時間等の病歴が急性の潰瘍とは少しでも異なるときは、また採血でGOT、GPTの上昇がみられれば、肝臓由来だけでなく心筋由来の酵素である可能性も考えるべきである。
見逃しやすい心筋梗塞の心電図
心電図では判断しがたい急性心筋梗塞もあることも認識する必要がある。図2は、筆者らが行った41例の急性下後壁梗塞(Infero-posterior AMI)と33例の急性前壁中隔梗塞(Antero-septal AMI)の例の急性期および慢性期の心電図と断層心エコー図(2DE)を比較したものである(1)。症状を有する前壁中隔心筋梗塞例では、急性期では心電図から診断できることがほとんどであるが、後壁梗塞は、慢性期には一部の例でV1のR波が増高して陳旧性後壁梗塞と診断できたが、30%の患者において急性期の心電図から急性心筋梗塞と診断できなかった。しかし、断層心エコー図では、左室後壁の壁運動低下をとらえることができ、この論文においては補助診断としての断層心エコー図の有用性を強調した。もし、断層心エコー図をルーチン検査とすることができないプライマリーケアの場であれば、後壁梗塞は心電図に現れにくいので、症状から心筋梗塞を疑えば急性心筋梗塞としての治療が必要であるという認識が必要である。
図2 (拡大可能) |
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図3 (拡大可能) |
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多枝疾患であれば、心電図での急性心筋梗塞の診断が難しいという認識も重要である。例えば前壁中隔梗塞に後壁梗塞が合併すると、V1〜V3のR波が増高して、QSはキャンセルされ、あたかも正常心電図のようにみられることがある。一方、心臓は正常であるのに心筋梗塞と見間違う心電図の存在にも注意すべきである。V2〜V4のST上昇と高いT波は、前下降枝の完全閉塞直後の特徴的な心電図でhyper -acute Tといわれる。また心外膜炎の急性期でもみられる。このような心電図は、若年者では時にみられるが、心電図からのみでは鑑別できない(図3)。心電図診断が病歴抜きに語れないということのよい見本である。
症 例
図4 (拡大可能) |
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図5 (拡大可能) |
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図6 (拡大可能) | 胸痛が5時間続いたため近医より転送された63歳の男性の転送前の心電図では、V2〜V3のSTが軽度低下、aVLで軽度のST上昇がみられるが、ほぼ正常に近い心電図である(図4)。
胸痛の性状と持続時間から心筋梗塞を考え、実施した断層心エコー図では左室後壁が無収縮でありで、緊急カテーテルを行った。結果は回旋枝#13の完全閉塞であった(図5)。
その後、心電図において徐々にV1のR波が増高し、T波も陽性となり典型的な後壁梗塞の心電図となった(図6)。
ま と め
急性心筋梗塞の診断においては、その根拠を心電図のみに固執せず各検査法の限界の認識が重要である。訴えのある患者に対して、臓器別ではなく患者の全体像をとらえるようにすることにより、表題のような心筋梗塞患者をみつけ、治療することが可能とある。
文 献
- Izumi C, Iga K et al. Limitations of Electrocardiography in the Diagnosis of Acute Myocardial Infarction --Comparison with two-dimensional echocardiography--. Internal Medicine 1995:34: 1061-1063
図 説明
- 後壁の貫壁性虚血例
- 急性心筋梗塞例に対する心電図の感度
- 25歳の心疾患のない症例
- 63歳の症例の急性期心電図
- 急性期の冠状動脈造影
- 慢性期の心電図
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