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解離性動脈瘤、心膜心膜炎、肥大型心筋症由来の胸痛の鑑別

Abstract

胸痛は主観的な症状であるので、患者によっては呼吸困難感、動悸と表現は様々である。胸痛を生じる疾患のうち生命を脅かす急性疾患としてとして、急性心筋梗塞以外では急性心膜心筋炎、解離性動脈瘤、肺塞栓があり、肥大型心筋症も労作性胸痛を主訴とすることの多い疾患である。胸痛の持続時間と心電図の時間的経過を総合的に考えることにより、およその鑑別診断は可能である。

はじめに

正確な病歴聴取、身体診察に加えてどこの診療所でも可能な検査である胸部レ線、心電図の4つの診断技術により心疾患のおおよその診断は可能である。その中でも、胸痛の鑑別に重要であるのが病歴である。

胸痛の性状は、患者により様々に表現されるが、臨床経験豊かな内科医であれば、病歴によりある程度の鑑別は可能である。胸痛は患者の主観的な訴えであるため、呼吸困難感、動悸と表現する患者もあり注意が必要である。胸痛の生じる誘因、持続時間、呼吸や体位等により増強するか否か、冷汗を伴っているか否かは重要な情報である。

病歴聴取能力を習得するためには、教科書を読むだけではなく、特に研修時代に、胸痛の原因が確定された患者を先生として自己学習することが一番早道である。我々は、狭心症、心筋梗塞、解離性動脈瘤、肺塞栓症等といった胸痛の原因が確定した患者を教育資源として、1年目研修医が病歴を再聴取するという研修プログラムを行った(1)。その結果、1年目研修医は、真の患者15名程度から病歴聴取すれば、病歴からの胸痛の鑑別診断に自信がでてくると結論した。

胸痛疾患患者に対する身体診察所見として、末梢動脈の触知が一部困難であれば、解離性動脈瘤を疑い、心膜摩擦音を聴取すれば急性心膜心筋炎と考えるのが妥当であろう。

患者自身の胸痛の性状に関する表現に加えて重要なことは、胸痛の持続時間から疾患の発症時期を推定し、経過時間と心電図所見から診断を考えることである。たとえば前胸部誘導のT波の陰転化ということで酷似した心電図であるが、この鑑別は病歴抜きには行いえない。つまり、の症例は、冷汗をともなう胸痛が1時間持続したということで来院した64歳の男性である。病歴と心電図からあわせると、左前下降枝閉塞の再疎通が考えられる(昔でいう心内膜下梗塞という概念)。の症例は胸痛と呼吸困難感の46歳女性で、発症6日目のものである。胸痛がまだ持続しており、呼吸困難も出現しているという病歴からは左前下降枝閉塞の再疎通は考えられず、肺塞栓が考えられる。この鑑別には断層心エコー図がきわめて有用である。このように、病歴と他の診断方法から総合的に考えれば、鑑別診断に大きな間違いを生じないと思われる。

この論文では、以下の3つの疾患について例をあげ解説を行う。

急性心膜心筋炎

心膜炎では心筋炎をあわせて生じていることが多く、臨床的にはこの2つの病態を区別しないことが多い。原因として、ウイルス感染症や、SLEをはじめとする膠原病が考えられる。

【 症 例 1 】
37度の発熱に伴い、3時間胸痛が持続するため救急外来を訪れた16歳の男性。前胸部誘導で広範囲にST部分の上昇がみられた。断層心エコー図では、左室壁運動は正常で心嚢水の貯留はなかった。胸痛は深呼吸で増強し、大きな呼吸をすることはできないとのことであった。アスピリンのみで経過観察し、徐々にST部分、T波が変化し、3ヶ月後に正常化した。

【 症 例 2 】
近医より胸痛が24時間持続しているため転送された虚血性心疾患の危険因子が全くない50歳の女性。初診時の心電図では、ほぼ全誘導でSTの軽度の上昇がみられた。緊急検査でCKの上昇はみられず、断層心エコー図では左室のび漫性壁運動低下と少量の心嚢水がみられた。CKは最高値500Uで、心電図は約4週間で正常に復した。

コメント

症例1は、若年であり深呼吸により増強する胸痛であり左室壁運動が正常であつことから、急性心筋梗塞は考えにくい。若い女性であれば、膠原病の初発症状であることもある。本例はウイルス性の心膜炎で心筋炎をともなわなかったと考えられる。症例2では、もし急性心筋梗塞と考えるなら、来院時は発症後24時間経過しているということで、CKの上昇がみられる時間であるはずだし、またST部分、T波が変化しているはずである。加えて、急性期の左室壁運動はび漫性の壁運動低下であり、特徴的な局所的壁運動障害もみられず、急性心筋梗塞は考えにくい。

近年、突然生じた胸痛症例に対して多くの施設で緊急の冠状動脈造影が可能となってきたため、ST部分、T波の変化が虚血ではなく心膜心筋炎も考えられる症例が増加してきた。冠状動脈造影で責任血管の閉塞が証明できていないとき、経過等が急性心筋梗塞と矛盾すれば、常に念頭に置くべき疾患である。

重症型の心膜心筋炎例では、予測できない急変があり得ること、適切に治療すれば後遺症を残さず回復することが多い。そのため、CCU設備が整った病院で、専門医がケアすべき疾患である。

解離性動脈瘤

【 症 例 3 】
65歳男性が、前日夕方から冷や汗を伴う胸痛が生じていた。夜間に、救急病院を受診した結果、胸部レ線で心拡大があるが心電図では急性心筋梗塞のパターンではないので、翌日に専門医を受診するようにと指示された。受診当日も胸痛が持続し、血圧は80/70 mmHg、過呼吸であった。心電図は正常であったが、初診担当医が全身状態がおかしいと判断し循環器内科医を呼んだが、その途中で心肺停止となった。心肺蘇生することはできず、解剖の結果、DeBakey1型の解離性動脈瘤で心タンポナーデを生じていた。

コメント

前日、救急病院からすぐに転送されれば手術は可能であったと思われる。胸部レ線で縦隔の開大がないからといって否定はできないということは重要である。初診担当医は、例え診断することができなくても、冷や汗を生じるくらいの強い胸痛が生まれて初めて生じたような患者に対しては、専門医の診断が必要であることを認識すべきである。

解離性動脈瘤の診断は造影CTにて比較的容易になった。しかし、CT検査中には、心電図モニターができず、急変時に対応ができない。緊急時の検査の手順は、心電図モニターを行うことができ、簡単なものから行うのが原則である。心筋梗塞らしいが心電図は変化しないという例であれば、まずベッドサイドの心エコー図で局所的な左室壁運動障害の有無を判断し、そのうえで、造影CTをとるべきである。


【 症 例 4 】
高血圧の既往歴がある43歳の男性。突然の胸部圧迫感が出現し、苦しくて体動もできない位であった。救急車で、発症後1時間にて来院、徐脈性不整脈とII,III,aVF誘導でのST上昇がみられ、緊急カテーテルとなった。上行大動脈でのカテーテルの操作が困難であり、テストショットで偽腔が造影された。冠状動脈造影を行わず、大動脈造影を行い、そのまま手術となった。

コメント

解離による胸痛は、心筋梗塞のそれよりはるかに強い。体動も負荷という表現は、心筋梗塞とすれば強すぎるような印象であったが、II,III,aVF誘導のST上昇から急性心筋梗塞を考えた。病歴から心筋梗塞らしい、解離性動脈瘤らしいという第一印象は重要である。本例は緊急カテーテル検査にて、DeBakey1型解離性動脈瘤が右冠状動脈に及んだと診断でき、緊急手術となった。もし、急性心筋梗塞と考えて、カテーテル検査なしにtPAを点滴していれば、動脈解離が進んだ可能性がある。胸痛が激烈でその表現が心筋梗塞と異なれば常に解離性動脈瘤は念頭に置かねばならない。

少し専門的な話になるが、緊急冠状動脈造影時では、常にカテーテルの操作から、解離性動脈瘤の可能性も考えられる医師がカテーテル操作を行うべきである。

肥大型心筋症

【 症 例 5 】
数年前から心電図異常と労作性の胸痛を主訴としていた65歳の男性。毎年、異常を指摘されるので、精査を希望して来院した。血圧は正常である。胸痛は運動を中止すると消失し、安静時には生じないが労作時呼吸困難感のため階段昇降は同世代に遅れる。今までに、10分以上持続した胸痛や冷や汗をともなう程の胸痛は一度も経験していない。心電図では左室肥大と大きな陰性T波がV2-6でみられ、断層心エコー図では左室心尖部中心に心筋肥厚がみられた。

コメント

もし、本例の心電図異常の原因を狭心症に求めるなら、血圧も正常ゆえ、の症例のように、強い胸痛の直後でなければあり得ない。しかし、本例では数年前から症状は安定しており、心電図異常もすでに指摘されているので、労作性狭心症が別に存在する可能性も十分にあるが、心電図変化は狭心症では説明できない。

肥大型心筋症例のうち労作時の胸痛を訴える症例が30-50%存在する。原因としては、肥大心のために運動時に相対的虚血が生じることが考えられる。病歴上からは、労作性狭心症と区別しにくいこともあるが、経時的な心電図のデータと併せて考えると、診断は困難ではない。初診であれば、以前の心電図を他院からファクスしてもらい比較することが重要である。

おわりに

胸痛の原因を判断することは、一つの検査法ではなく、病歴、身体診察に加えて簡単な検査である胸部レ線、心電図、一般採血から総合的に考えれば診断はそれほど難しくない。卒前・卒後研修プログラムとして、心電図や胸部レ線の読影のみではなく、実際の患者さんから病歴をとる実習が必要と考える。

文  献

  1. 伊賀幹二、八田和大、西村 理、今中孝信、楠川禮造:胸痛鑑別診断学習における診断が確定している患者からの病歴再聴取の効果。医学教育28:41-44 1997


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