食後の血糖上昇とインスリン追加分泌のタイミングを接近させる
肝臓は、食間や夜間は肝糖産生を行って血液中に糖を放出しているが、食直後から3時間程度は、肝糖産生を一時的に停止し、肝糖取り込みを行っている。この肝糖産生から肝糖取り込みへの切り替えに深く関与しているのが、食後に追加分泌されるインスリンであるが、食後のインスリン初期分泌低下例では、この切り替えが遅くなるため、結果として食後高血糖をきたしやすくなる。そこで、食後の血糖上昇とインスリンの追加分泌のタイミングを接近させるアプローチが、肝糖産生の停止と肝糖取り込み亢進による食後血糖制御に重要となる。そのためには、ゆっくり食事を摂ること、食物の消化・吸収を遅らせる食物繊維を食前に十分摂取する、この2つが食後血糖の上昇を遅延させて、インスリン分泌のタイミングに近づけるために有用である。薬物療法としては、二糖類分解酵素を阻害するα-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)、そして早期のインスリン分泌を促進させる速効型インスリン分泌促進薬が有効である。
最近では、食後高血糖と動脈硬化症の関係が話題になっているが、2型糖尿病例に対するα-GIの効果メタ解析であるMeRIA7研究では、α-GI投与群ではプラセボ群に比して、心血管疾患発症が抑制されたことが報告されている4)。また、われわれがHbA1c 6.5%未満の薬剤未使用2型糖尿病例に対する速効型インスリン分泌促進薬の効果を検討したNITED studyでは、速効型インスリン分泌促進薬投与群は、非投与群に比べて、頸動脈IMTの年平均増加率を有意に減少したことが示されている5)。つまり、食後高血糖を積極的に改善すると、動脈硬化の進展が抑制されると考えられる。
脂肪肝、脂肪筋を減少させてインスリン抵抗性を改善する
肥満や運動不足などの環境要因が大きく関与するインスリン抵抗性を改善するためには、まず生活習慣の改善が重要である。現在、肥満がインスリン抵抗性を惹起する機序として、2つの機序が考えられている(図2)。1つめは、内臓脂肪細胞の細胞内に中性脂肪が過剰に蓄えられて肥大化することにより、悪玉因子である遊離脂肪酸(FFA)、TNF-α、MCP-1が増加、善玉因子であるアディポネクチンが減少し、肝臓や筋肉におけるインスリン作用が妨害されて引き起こされるものである。もう1つの機序として最近明らかになったのは、肝細胞内に中性脂肪が過剰蓄積した脂肪肝、そして骨格筋細胞内へ中性脂肪が過剰蓄積した脂肪筋の存在である。
われわれが2週間の教育入院を行った2型糖尿病患者に対して、脂肪肝および脂肪筋の変化率とインスリン抵抗性の変動を検討したところ、脂肪筋は食事療法単独群では低下しないが、食事+運動の併用療法群では25%程度の有意な減少がみられた(P<0.03)6)。その際、筋肉のインスリン感受性は、食事療法単独群では変化しなかったが、食事+運動の併用療法群で有意に改善していた(P<0.03)。一方脂肪肝は、食事療法単独群でも、食事+運動療法併用群でも、30%程度の有意な減少を認め、肝臓のインスリン感受性も改善していた(P<0.03)。2週間での体重減少は1.5〜2.0kg程度であり、悪玉因子であるFFA、善玉因子であるアディポネクチンには有意な変動が認めなかった。従って、運動は脂肪肝を減少させて、筋肉におけるインスリン抵抗性を改善し、食事療法は脂肪肝を減少させて、肝臓のインスリン抵抗性を改善すること、また短期的な生活習慣の改善では、脂肪細胞のサイズが減少する前にまず脂肪筋、脂肪肝が減少し、このためにインスリン抵抗性が改善すると考えられる。
さらにわれわれが耐糖能異常(IGT)を呈したメタボリックシンドローム例に対して、3ヵ月間の食事指導を行ったところ、腹部皮下脂肪量、腹部内臓脂肪量に比べて、脂肪肝の減少率が最も高かったことが明らかとなった7)。そして脂肪肝と内臓脂肪量の変化には有意な正の相関が認められた(r=0.78/P=0.003)。
これらの知見から、生活習慣の改善で最初に変化するのは細胞内肥満であり、脂肪肝および脂肪筋の減少はインスリン抵抗性を改善するといえる。さらに食事療法と運動療法を継続すると、内臓脂肪や皮下脂肪も減少し、これによるインスリン抵抗性の改善効果が上乗せされると考えられる。その際、脂肪肝と内臓脂肪は連動して変化する可能性が推測される。
以上から、発症早期の軽症2型糖尿病患者では、最初の3ヵ月間は食事療法、運動療法で経過を観察する。食事療法については、適正な摂取カロリーや栄養バランスを指導するだけではなく、食後の血糖上昇と追加インスリン分泌のタイミングをあわせるような食事方法も指導する。運動療法については、継続的な運動習慣はもちろんのこと、日常生活において、立位やちょっとした歩行による効果が最近注目されており8)、細切れの運動でも積み重ねることで効果が期待できると考えられている。そしてこのような生活習慣改善を行っても目標とする血糖コントロールに到達しない場合は薬物療法となる。その場合、インスリン初期分泌低下例には、食後高血糖を改善するために、α-GI、速効型インスリン分泌促進薬を、インスリン抵抗性の方が問題となる肥満例では、ビグアナイド(BG)薬あるいはチアゾリジン薬を先行させる。
欧米では2型糖尿病治療の第一選択薬であるメトホルミン
米国糖尿病学会(ADA)と欧州糖尿病学会(EASD)が合同で発表した「2型糖尿病の血糖管理のための治療アルゴリズム」では、食事・運動療法と同時に、メトホルミンの投与を開始するべきであるということで意見が一致している9)。メトホルミンの主な作用は、肝におけるグルコース産生を抑制し、空腹時血糖値を低下させることである。その他、食欲抑制作用10)、末梢組織での糖取り込みの改善11)などにより、血糖低下作用を発揮する。メトホルミンは、膵臓に直接作用せず、インスリン分泌を促進しないため、単独使用では低血糖を起こさない。またメトホルミンは体重を増加させず、むしろ減少させることが報告されている12)。脂質代謝に関しても悪化させることなく、むしろ改善傾向となることがわかっている12)。さらに低薬価であり、患者負担が少ない。以上のことから、2型糖尿病患者治療の第一選択薬として、メトホルミンが推奨されている。


